- シェヘイリスとは何だったのか
クライン・シェヘイリス工場の実態
- すでに2005年のこのサイトのクライン定点観測で、2002年6月5日のクライン・バイシクル・コーポレーションのシェヘイリス工場に関すリアルエステートオークションで、大量の機材・什器類が売りに出されたことを報じたので、ご承知のことと思う。
2002年2月に、クラインは親会社のトレックの指示により、生産をすべてウィスコンシン州ウォータールーに移したとされており、また、従業員も多くが解雇されたと推測されることから、シェヘイリスで売りに出された機材・什器は、クラインが保有していた機材のほとんど全てである可能性が高いと思われる。
こうした前提を元に、オークションのデータなどを解析すれば、かつてシェヘイリスにあったクライン工場の全貌が、ある程度明らかになるはずだ。
工場の存続期間は、1980年頃から、2002年の2月までの約22年である。クラインがウォータールーへ移転したあと、別企業(バイクとは関係がないPioneer Conbeyors社)が使用していた。ただし、2007年1月現在も同社が使用しているかは確認していない。
2007年1月現在、工場敷地の2/5に相当する20,620平方フィート分が、Lewis County Economic Development Council(ルイス郡経済発展評議会)に所有権が移転しており、工業用地・建物としてリースが可能となっていた。
http://www.lewisedc.com/properties.jsp
これは、インターネット・リソースという限られた情報源から、かつて輝かしい栄光に包まれていたクラインのシェヘイリス工場を再現する試みなのだ。
Chehalisという固有名詞を、どのようにカタカナで表記するかについては、いろいろ説があったが、喧噪社では「シェヘイリス」と表記する。その根拠は、Steven Sauke氏が米国・カナダ北西部の地名の発音について調査した結果による。そこでは、Chehalisは【sha-HAY-lis】と表現されている。このうち、小文字のa音はアとエの中間音なので、カタカナで表記すると、shaはシェまたはシャ。続いてHAYはヘイ、lisはリス。つまり、シェヘイリスあるいはシャヘイリスとなる。アクセントは、HAYに置かれる。ただし、実際にネイティブスピーカーが発音したものを耳で聞いた場合は、チェハリス/シェヘリスと聞こえることもあるだろう。
1 ロケーション
1−1 地勢シェヘイリス工場の住所は118 Klein RD. Chehalis, WAであった。シェヘイリス(Chehalis)は、米国西海岸北部のワシントン州(Washington State) ルイス郡(Lewis county)に属する町である。人口は7000人ほどであり、近くにはセントラリア(Centralia)などの小都市が点在している。
近隣の大都市としては北方にワシントン州の州都シアトル(Seattle)、南にはオレゴンの州都ポートランド(Portland)、北の国境をまたげば、カナダ側のブリティッシュコロンビア州に大都市バンクーバー(Vancouver)がある。シアトルまでは80マイル(132km)ほどの距離にあり、インターステーツ5号線を利用して日常的に移動が可能である。
http://maps.google.com/maps?client=safari&rls=ja-jp&q=chehalis%20wa&ie=UTF-8&oe=UTF-8&sa=N&tab=wl
シェヘイリスの特徴としては、移民人口が少なく、高齢化が進んでいるため、介護を要する人口割合が州の平均を著しく上回っていることがあげられる。また、犯罪指標は全国平均を若干上回っているが、これらは窃盗や自動車窃盗が多いのが主たる原因であり、殺人などの重大犯罪は比較的少ない。
- 1−2 気候
シェヘイリスの属するセントラリア地域の平均気温は、米国平均を下回っている。1日の平均気温は1月は摂氏5度、7月は摂氏15度であり、夏はかなり冷涼である。
1月の日別最低気温は摂氏1.5度、日別最高気温は摂氏8.8度であり、7月の日別最低気温は摂氏11.5度、日別最高気温は摂氏27度である。
降雪は10月から4月まで見られる。また、日照時間は米国平均をかなり下回っている。一年のうち、50%程度は雨、雪という天候となっているからである。降水量は5月から9月までは米国平均より少なく、10月から4月までは積雪のため極端に多い。風は弱く、穏やかな日が多い。日本と比較して、夏と冬の温度差は小さいため、日本の都市に類似した気候を求めることは出来ない。
バイクに乗る環境としては冬は雪が多いため適していないが、それ以外の季節は比較的降水量が少なく、冷涼なためバイクライドには適していると言える。
2 雇用状況
2−1 従業員数シェヘイリス工場の従業員は最大雇用時点で80名、最終状態では60名程度が雇用されていた。
つまり、この工場ではシェヘイリスの人口7000人の約1%が雇用されており、従業員の家族構成などを考慮すると、シェヘイリスの人口の2%から4%程度がこの工場に関係していたと推測される。このことから、工場の閉鎖はシェヘイリスの経済に大きな影響を与えたことは容易に想像できる。
2−2 従業員のエスニックグループシェヘイリスの人口に占める人種構成は、86.2%をコーカソイド系、ヒスパニック系が7.9%、ネイティブアメリカンが2.4%、アフリカ系が1.3%を占めているとされている(http://www.city-data.com/city/Chehalis-Washington.html (2005) )ことから、仮にエスニックグループが、従業員に同様程度に反映されているとすると、最大雇用時点の従業員数80名において69名がコーカソイド系、6名がヒスパニック系、2名がネイティブアメリカン系、1名がアフリカ系、2名がアジア系を含めたその他のエスニックグループということとなる。
これらは単純計算による推測値であり、シェヘイリス工場の内部の様子を想像する助けとしてほしい。
2−3 業務種別業務種別として考えられるのは、研究開発・材料購入・製造(材料準備・材料加工・溶接・塗装・組み立て)・検査・販売(テレマーケティング)の各部門である。ただし、これは推測である。
従業員のどの程度の割合がどの業務に従事していたかについてのデータはない。ただ、わずかに、ゲイリー・クラインが社長をつとめ、95年までダリル・ヴォス氏が技術担当(研究開発)副社長であったことだけがわかっている。筆者の全くの推測により、業務種別の人数を割り振ってみると下のようになるが、これには根拠はなく、印象のみによる推測値なので、あくまでも参考程度の認識にとどめて欲しい。
- 社長 1名 技術担当副社長 1名 研究開発 4名 材料購入 4名 庶務 2名 製造 57名 (材料切り出し 9名・加工 9名・溶接 10名・塗装 10名・組み立て 20名)・検査 6名・販売 4名
3 工場建物
3−1 建家面積建家面積は、トレックの広報担当者からの証言により、約50000平方フィート(約4600平方メートル)程度であったらしい。衛星写真から判断した場合でも、100m×50m程度の大きさの工場であったと思われ、面積的に符号する。たとえば日本では、これは町工場というレベルではなく、郊外の工業団地に立地されるような中規模の工場といえる。
http://terraserver-usa.com/image.aspx?T=1&S=10&Z=10&X=2574&Y=25767&W=1
(terraserver-usa 6/21/1990撮影)
3−2 構造工場建家の基本構造は、内部の写真などから、鉄骨構造(軽量鉄骨の可能性もある)によるものと推測される。工場内部の写真から判断して、床はスラブ打ちと推測した。工場の建設時期は不明であるが、terraserver-usa.comの衛星写真撮影年月日が6/21/1990なので、1990年には既に最終状態の姿だった可能性が高い。また、平屋建てであり、屋根・壁面は波板鋼板張りである。屋根は切妻式であり、最高部分で16フィート(487センチ)、最低部分で13フィート(396センチ)である。
3−3 付帯設備衛星写真によれば、工場建家の北側には渡り廊下で接続された事務所のような建家が見られる。このオフィス部分は2000平方フィートある。おそらく、ここでマーケティング・販売等などの事務が行われていたかもしれない。南側には100台分の駐車スペースがあり、従業員・来客用の駐車場としては十分であった。電源はPUD(Lewis County Public Utility District)=ルイス郡公益公社が三相480ボルトを供給した。また、下水は浄化槽で処理していた。
この工場は市街地から離れた森林のなかに位置し、周りをいくつかのジープロードやシングルトラックが囲んでいる。こうしたトレイルは、ゲイリー・クライン自身によるバイクの研究開発に使用されていたとされる。こうしたトレイルでの研究開発は、積雪が多くなるため走れない12月−3月をのぞき、日常的に行われていたと推測される。
インターネットリソースによれば、工場を見学したり取材に訪れた人々も、しばしばゲイリー・クラインにランチタイム・ライドなどに連れ出されたといわれている。
ttp://www.sidetrak.com/Japanese/shoji16.html
また、冷涼な気候から判断して、夏季の冷房設備はおそらく不要であっただろうが、冬季の暖房設備は必要であったろう。
なお、2007年現在、ルイス郡経済発展評議会が所有権を保有しており、この建物のリースによる貸し出しが可能となっている。
4 機材
シェヘイリス工場閉鎖後、オークションにかけられた機材は次のとおりである。オークションにかけられたもの以外にも、親会社のトレックがウィスコンシンに持ち帰ったり、、ゲイリー・クライン自身が未だに自己保有している機材がないとはいえないことに注意が必要である。以下に記載する機材類で、個数・単位を示していないものはすべて1個・台とカウントする。
4−1 工作機械- マキタ製 電動ドリル
- バルドー製 120V 二連グラインダー
- ロックウェル製 6インチ ベルト式電動サンダー 2台
- オスター製 #522 120V ネジ山切り機
- テレシス製 TMP 6100 金属マーキング機
- ユーロマ製 #FP24-120ネジ山切り機
- パーカー製 空気圧式穿孔機
- イナーパック(エナパック)製 空気圧・油圧式昇圧機
- セルフィーダー製 二連空気圧式ドリル
- ロールイン製 9インチ帯鋸盤(バンドソー)
- ラシーン製 54440型油圧式裁断式弓鋸盤
- 旭東製 HT40502型 フォーク切断機(ねじ切り機付属)
- ブリッジポート製 シリーズ1 垂直フライス盤と9x42インチ電源供給装置付き作業台 のセット
- 旭東製 #HT5921T油圧式作業台
- シェヘイリス工場製 コントロール装置付き油圧プレス
- ガードナー=デンバー(DGD)製 起重機付き10'X20'X12' 起重機台
- ディスパッチ製 PSC3-39S ウォークイン恒温槽(フレーム熱処理機)(最大操作温度 華氏500度)及びラブセルフ製 制御装置(480V)
- フェン製 NO. 2H 油圧式鍛造機及び制御装置
- チュアンホン製 チューブ製造器及び制御装置
- 製造会社不明 万力
- 製造会社不明 120V 1連電動ドリル
4−2 溶接機械- ミラー製 シンクロウェーブ300溶接機及び300式電源増幅装置(バーナード製冷却装置付き)
- ミラー製 CP5VS溶接機及び500式電源増幅装置(230/ 460 V)
- ミラー製 ミラマチック 10A 溶接ワイヤ送給装置
4−3 塗装機材- ブルー・エム製 電気炉(華氏250度迄)
- クリーンエア製 オーバーヘッド式ガス炉及びその制御装置と支持構造
- ランダ製 ウォーターブレイズ(ガス式水分蒸発システム)
- 製造会社不明 塗装焼付機(8X8X8フィート 華氏600度) アシーナ・デジタルコントロール装置 440V 3PH
- 製造会社不明 5タンク(1タンク当たり360ガロン)式パウダーコート前処理用浸漬槽、金属製流出防止用部材、制御装置
- 製造会社不明 浸漬槽用フレーム運搬機及びラック、制御装置
- 製造会社不明 パウダーコーティング用焼付塗装機及び塗装用フック、制御装置
4−4 計測機械- デテクト製 100 LBX 0.5オンス デジタル計測器
- ソニー製 ミルマン・デジタルDRO(電子式読み取り装置)
- 製造会社不明 計測用スタンド
4−5 備品類- スティール製 電動草刈機
- パットン製 工業用扇風機
- キニー製 吸引ポンプ
- 製造会社不明 ショッピングカート
- 製造会社不明 安全缶 3個
- 製造会社不明 箱運搬用台車 4台
- 製造会社不明 円筒運搬用台車
- 製造会社不明 パレットジャッキ(手動フォークリフト)
- 製造会社不明 可燃金属用消火器(台車付き)
- 製造会社不明 凹型パレット 3個
- 製造会社不明 施錠ドア付安全カゴ
- 製造会社不明 マーリン電話システム(制御装置及び電話機(15台程度))
- 製造会社不明 36X48インチ 花崗岩製ブロック
- 製造会社不明 120V チェスト式冷凍庫 4台
- 製造会社不明 プラスティック製廃棄物タンク(非規格品)
- 製造会社不明 運搬カート 8台
- 製造会社不明 その他カート 2台
- 4−6 什器類
- ロータブ製 24インチ回転台
- 製造会社不明 台 2台
- 製造会社不明 作業台
- 製造会社不明 自転車用作業台
- 製造会社不明 自転車用修理・組立作業台 7台
- 製造会社不明 特製回転台(速度コントロール装置付)
- 製造会社不明 金属製台 16台
- 製造会社不明 調整式金属製棚ユニット 3台
- 製造会社不明 金属製棚ユニット 5台
- 製造会社不明 金属机 13台
- 製造会社不明 金属製大型机 2台
- 製造会社不明 金属製テーブル
- 製造会社不明 金属製仕事用テーブル
- 製造会社不明 折りたたみ式机
- 製造会社不明 金属製キャビネットなど 4台
- 製造会社不明 棚とキャビネットなど 2台
- 製造会社不明 2ドア式金属製キャビネット 13台
- 製造会社不明 6段チェスト
- 製造会社不明 金属製作業台 14台
- 製造会社不明 6ドア式木製キャビネット
- 製造会社不明 回転ラック 66台
- 製造会社不明 工具保持具付き作業台
4−7 工場内車輌- デーウー製 G25S 油圧フォークリフト(5,000ポンド プロパンガス駆動、サイドシフト式)
4−8 一般車輌- フォード製 2000年式 F150ピックアップトラック(6気筒・オートマチックトランスミッション)
4−9 車輌部品- 製造会社不明 フォークリフト用ダンプ式ホッパー 3台
- 製造会社不明 フォーク延長キット
4−10 その他- 机や台の上、壁に放置されていた種々雑多のなものがある、という記載がオークションリストに残っている。これらの内容については全く不明である。
- 5 まとめ
シェヘイリス工場には建物・機材など、以上のような経営資源があった。クライン・バイシクル・コーポレーション社は、ゲイリー・クラインとダリル・ヴォスの指揮のもと、従業員達はこれらの機材を使用して、1980年から2002年始めまでのほぼ20年間に、さまざまなバイクを製作した。- 工場を除くこれらの経営資源は全て、トレックによるシェヘイリス工場閉鎖のあと、リアルエステート・オークションにより処分され、あるいは廃棄されたと思われるのだが、だれが落札し、そして、それらがその後、どのように使われたかについては現在のところ不明である。
- 私たちは今、かつてのクライン・シェヘイリス工場がどのようなものであったかを知った。しかし、クライン以外の、倒産し、または巨大資本に飲み込まれていった無数の小規模自転車製造企業のことは、まだ誰も知らない。
※歴史上の間違いについてはご指摘ください。もし、さらに詳細を知っている方がいれば教えていただければ幸いです。